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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)3062号 判決

原告

日本オートサービス株式会社

右代表者

野崎公一

右訴訟代理人

千葉孝栄

被告

小柴重彦

右訴訟代理人

石川悌二

主文

被告は原告に対し、二、二五七万二、四八〇円およびこれに対する昭和四六年八月二六日以降支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決の第一項は、仮りに執行することができる。

事実《省略》

理由

一原告主張の請求原因一および二の事実(編集者註―原告と明活通商との間の継続的修理・加工契約の締結)は当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば、つぎのとおりの事実が認められる。すなわち、

訴外明治通商は、昭和四三年一一月頃から経営不振に陥り、翌四四年初め頃には手形の決済にも困窮するに至つた。そこで、右訴外会社の大口債権者であつた原告は、同会社の懇請により手形の書換等に応じて同会社の延命に助力したが、同会社は立ち直ることができず、その経営は益益逼迫していつたため、原告も自己の債権回収を確保すべく、同年七月二七、八日頃、原告会社の代表取締役野崎公一と右訴外会社の代表取締役である被告とで協議した結果、原告と同会社との間で、同会社の原告に対する未払債務が三、〇三七万二、五四〇円存することを確認するとともに、その債務の清算につき、原告が同会社から修理、加工のため同日現在保管している自動車全部の所有権を譲受け、これを原告において修理、加工のうえ同会社のルートを使用して輸出し、その輸出代金から修理、加工費および部品代等の必要経費を控除した残額を右未払債務の弁済に充当する旨の債務弁済契約が締結され、なお、その際、同時に原被告間において、右債務弁済契約をもつて完済しえなかつた残債務について被告個人がその支払を保証する旨の保証契約が締結された。

以上の事実が認められる。

被告は、被告が保証したのは訴外明治通商が原告に所有権譲渡した自動車の輸出ができなかつたり、あるいは、輸出代金の支払がえられなかつたりした分についてのものであり、右訴外会社の原告に対する未払債務残額全部についてのものではない旨抗争するが、〈証拠〉によれば、被告がした保証契約の内容は被告主張のようなものではなく、前示認定のとおり内容のものであることが認められるから、被告の右主張は採用することができない。

ところで、〈証拠〉によれば、前記債務弁済契約の成立後間もない昭和四四年七月三一日、訴外明治通商は手形の不渡りを出して倒産し、同会社の債権者らによつて私的整理がなされるに至つたこと、そこで、原告は前記債務弁済契約により取得した自動車を換価処分したほか、右以外に右訴外会社から保管していたタイヤ等の部品も債権者委員会の了解のもとに適宜換価処分し、これらの処分価額は合計七七九万〇、〇二〇円となつたこと、もつとも、右のうち一部の自動者等については換価処分することができず、スクラツプとして処分したものも含まれているが、原告は、それらスクラツプとして処分したものについても右債権者委員会作成の商品価額表に従つて同表の価額どおりに評価計上しており、これらを含めて原告がした処分価格および評価額に不公正な点は認められないこと、原告は、右処分価額を、商品の最終処分日の昭和四六年八月二五日に右訴外会社の原告に対する前記未払債務三、〇三七万二、五四〇円に充当したこと、以上の事実が認められる。

そうとすれば、訴外会社の原告に対する未払債務の残額は、原告主張のとおり、二、二五七万二、四八〇円となり、被告は、前記原被告間の保証契約に基づき、保証人として、原告に対し、右未払債務残額を支払う義務があることになる。

二そこで、被告主張の抗弁について判断する。

(一)  原告の訴外明治通商に対する債権放棄の点について

〈証拠〉によれば、昭和四四年七月三一日訴外明治通商振出の手形が不渡りになつた直後、右訴外会社の債権者らによつて債権者集会が開催され、そこにおいて、右訴外会社に対する一切の債権債務関係を清算することを内容とする私的整理の方針が採択され、右訴外会社もそれを了承したこと、そこで、原告を含む五・六社の債権者がその債権者委員となり、それら委員による債権者委員会がその負債整理にあたつたが、当時右訴外会社の負債総額は一億数千万円あり、これに対する資産としては見るべきものがなく、予定配当率は最大限七パーセントと極めて低率のものしか見込めなかつたうえ、整理執行上、右訴外会社の自動車、部品等を現に保管している債権者からそれらを引き上げることは同債権者らの抵抗があつて事実上困難であることが予測されたため、右委員会の委員長船戸和男は、これら債権者とのトラブルを避けるとともに、他の一般債権者に対する配当率を確保するには、右訴外会社の自動車、部品等を保管している債権者に対し、保管中の自動車、部品等の所有を認める代りに、配当から除外することの了承を得る外ないと考え、その承諾を得るため自動車、部品等を保管している債権者と個別的に接渉したこと、そして、右訴外船戸は、昭和四四年九月三日、原告会社の代表取締役前記野崎と交渉し、原告と訴外明治通商との前示債務弁済契約を是認する代り、原告に対しては配当しないことで原告会社の代表取締役前記野崎の了承を得たこと(もつとも、原告会社代表取締役野崎は、その後間もなく、右の点についての確認書を取り交す段階になつて、前言を翻し、原告を配当から除外することは了承できない旨を前記債権者委員長に通知したこと)が認められ、〈る。〉

しかしながら、右認定以上に、原告が保管中の自動車等の所有権を取得する代りに、訴外明治通商に対する債権全部を放棄したとの被告主張の事実は、本件全証拠をもつてしても認めることはできない。

のみならず、本件のように主債務者たる訴外明治通商について、破産的清算に代わる内容の私的整理がなされた場合には、そこにおいて、残余債権(未配当債権)について債務免除ないしは権利放棄等の手続がなされたとしても、それらは主たる債務者の保証人および主たる債務者のために第三者から提供されている担保については影響を及ぼさないと解するのが相当である。このように解すると、一見、保証債務や担保物権の附従性に反するようにも見えないではないが、およそ保証債務とか担保物権とかは、本来、債務者が無資力なために完全な満足が受けられない場合に備えてなされるものであるから、保証人とか担保義務者が破産的清算に代わる内容の私的整理によつて利益を受けるとすれば、主たる債務の履行を確保するために人的ならびに物的担保を設定させた本来の目的に反することになり、かかる結果は到底是認し難いものであるし、また、本件のように株式会社たる法人に対して破産的清算に代わる内容の私的整理がなされた場合に、最終的に各債権者の残余債権について債務免除ないしは権利放棄等がなされるのは、債権者相互間において私的整理が異議なく完了したことを確認する意味合いに重点があり、自然人と異り、法人に対する右の意味での私的整理終了後の残余債権は形骸的なもので、その免除ないしは放棄等は経済的にはなんらの意味もないものである(もつとも、税務対策上債権の貸倒れ損金処理をするため債権放棄等をする意味も認められないではないが、保証人あるいは物的担保のある場合には、たとえ債権放棄等をしたところで、貸倒れとしての損金処理は認められないから、かかる場合には税務対策上の処理としても全く無意味なものである。)から、法人について破産的清算に代わる内容の私的整理がなされた場合には、そこにおいて、残余債権につき債務免除ないしは権利放棄等の手続がなされたとしても、それらは保証人や担保義務者に対しては影響を及ぼさないと解するのがむしろ合理性があるというべきである(なお、破産法三二六条二項、和議法五七条参照)。

したがつて、いずれにせよ、この点に関する被告主張の抗弁は採用することができないといわなければならない。

(二)  消滅時効の抗弁について

原告の訴外明治通商に対する前示未払債権は、請求原因二記載の継続的修理加工契約に基づき原告が自動車の修理、加工によつて取得した修理、加工代金債権であるところ、当事者間に争いない事実と弁論の全趣旨によれば、原告は修理工場を設けて建設機械、自動車等の修理等を営む会社であるから、右修理、加工代金債権は民法一七三条二号所定の債権ではなく、同法一七〇条二号所定の債権として同条所定の三年の短期消滅時効に服するものと解される。

ところで、訴外明治通商は、前示のとおり、昭和四四年七月三一日、手形の不渡りを出して倒産し、その後間もなく債権者集会が開催されて破産的清算に代わる内容の私的整理の手続がとられ、原告も債権者としてこれに参画していたのであるから、原告の右訴外会社に対する前示未払債権の消滅時効はその間中断し、右私的整理の終了した時から更に進行するものと解するのが相当である。しかるところ、〈証拠〉によれば、右私的整理は昭和四五年五月三〇日に終了したことが認められるから、それより更に三年間、中断事由が生じることなく経過しなければならないことになるが、〈証拠〉によれば、昭和四七年一〇月二〇日、被告に対し、本訴請求と同一の請求をしていることが認められるから、被告主張の消滅時効の抗弁もまた採用することができないといわなければならない。

三そうとすれば、被告は原告に対し、前示保証契約に基づき、訴外明治通商が原告に対し負担する前示未払債務残額二、二五七万二、四八〇円およびこれに対する弁済期後たる昭和四六年八月二六日以降支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よつて、原告の本訴請求は正当として認容することとし、訴訟費用につき民訴法八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。 (海保寛)

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